1999年に散財したものたち

サンザイバー1999


1999/12/19 5:30 p.m.

詩的私的ジャック
森博嗣
講談社文庫

ミステリという立場からは、まずまず、といったところ。 国枝さんがかわいい。こんなに激しい、いい女とは思わなかった。 あと感心したのは謎の明かし方。 「英語で言える?」なんて、とても洒落ている。 後から「なるほど!」って本当に納得できるから。

ブギーポップ・カウントダウン: エンブリオ浸蝕
上遠野浩平
電撃文庫

この話はまだ続くようなので、ちょっと判断を保留したい感じ。 まだまだ物語の発端で、全てはこれから、というところで切られているから、 まあ早く続きを書いて欲しい、というところか。 この話だけだといつもの青さ、切なさ、痛さといったものが弱いので、 今はちょっと欲求不満かな。


1999/12/15 4:30 a.m.

サブウェイ(映画)
1984 仏
リュック・ベッソン監督

話はシンプルできれいなんだから、 もっと切って切って、ぴりっとまとめるべきでは。 途中眠いっす。 まあ今やすっかりハリウッドに毒されて、 エンターテイメントに力を注ぐようになっている監督だから、 こういう初期の生真面目な作品はそれなりに貴重かも。 フランスの地下鉄の駅の色彩設計は、やっぱりフランス。 日本ではお目にかかれない色彩感覚がさすが。


1999/12/7 3:30 a.m.

新版 スペース・オペラの書き方
野田昌宏
ハヤカワ文庫

ハウツー本第2弾。 こちらは文章を書くための本というより、 「どきどき・はらはら、ああコリャおもしれェ、そう言わせる本を書こうぜ!」 というノリを伝えるために書かれた本。 小説技法とかを学ぶにはあまり向かないんだけど、 小説家、それも多数の読者を想定した小説家を目指す心構えをきっちり教えてくれる。 ホテルに缶詰になるなり方、執筆の道具の選び方、 精力剤の飲み方なんてのまで教えてくれるのもマル。 「俺はこれで食っていくぜ!」という強烈な意志へと導いてくれるので、 どんな職業を目指している人でも読んで損はないかも。ちょっと言い過ぎか。


1999/12/3 3:30 a.m.

新人賞の獲り方おしえます
久美 沙織
徳間文庫

ハウツー本第一弾。 タイトルから想像されるほどのちゃらちゃらした内容ではなくて、 割ともの書きとしての「心構え」を説くことが多いので、 まずまずだと思う。 もちろん十分「あざとい」んだけど。 何も説明してないけど、課題で「雨のシーン」「群集」を書け、 ってのを出してみたりとか。雨のシーンって大事なんだよね。


1999/11/15 2:30 a.m.

覆面作家の夢の家
北村薫
角川文庫

覆面作家シリーズの最終巻。う〜ん、惜しい。終わってしまって残念。 そう思える作品。

いつものことながら、日常に潜む謎とそれに対する目も覚めるような解決、 そしてほのあたたかい人と人との心のふれあいが、 大切に大切に描かれている。読むべし。

しかし、憎らしくなるくらいラストは見事。 何でもない落ちを、どうやって描くか。 この作品の一番基本的な土台となる設定、一番何でもなく描写されてきた光景が、 このラストシーンに生きてくるのはもう「参りました」としか言いようがない。 きっとこのネタは偶然エンディングに来たわけじゃなく、 いくつもいくつも作品のネタを考えておいて、その中で一番ふさわしいものを、 一番ふさわしい時期に出してきたんだろう、と思う。 いやー勉強になるな〜。


1999/11/9 1:30 a.m.

ありきたりの狂気の物語
チャールズ・ブコウスキー
新潮文庫

ひたすら重い、重い言葉だけがつづられた作品。 つづられるというより、ただそこに置いただけ、 とでも言うようなぶっきらぼうな作品。 ひたすら下がるテンション、強烈な露悪趣味。 面白い作品じゃなかったんだけど、何故かあとをひく。 「狂った生きもの」「愛せなければ通過せよ」 「ウォルター・ローウェンフェルズに」なんかはそのまま通り過ぎられない感じ。


1999/10/29 11:30 p.m.

最近突然忙しくなってほとんど読めない…

リメイク
コニー・ウィリス
ハヤカワ文庫

映画好きならうれしくなる作品。 舞台は、高度にデジタル化されたハリウッド。 新規に映画を作ることをせず、デジタル化された映像ライブラリから 好きな俳優を切り出し、貼り付け、自由に動かすことで映画が作られている世界。 映画が好きでたまらないのにその映画を改変することで食っている主人公。 もう決して作られることのないミュージカル映画で踊ることを夢見るヒロイン。 そんな二人が出会う、といういたってシンプルなストーリー。 でも、全編に流れる主人公たちの映画への思いが ストレートに伝わってくる、心地よい作品になっている。

主人公の女友達、ヘッダもすごくいい。 助演女優賞ものですな。


1999/10/12 4:30 a.m.

ミュートスノート戦記: 戦鬼は雪嶺を翔ける
麻生俊平
富士見ファンタジア文庫

シリーズ終盤、ハードな展開のこの1巻。 戦闘のことではなく、精神的にハード。 戦闘マシンを作るのは簡単だからね。 でもその後のことを考えるのは、とても難しい。

というわけで非常に力作。そして、どこまでも追い続けてくる。 考えろ、考えろ、考えろと。

強いものと弱いもの。勝ったものと負けたもの。 世界は順序付けられ、決定する。 強者は弱者を意のままにする権利が与えられる。 それを否定するための戦いを、主人公たちは選ぶ。 何故選ぶのか。どのように選ぶのか。そしてどう戦うのか。 ということは本編に触れるのでおいておくとして…

弱肉強食は種としての生存に非常に有効だ。 順序付けされた世界というシステムは、非常に完成度が高い。 それをふまえた上で、このシステムを否定したいときの理由付けは? 何故否定しなければならないのか?

気に入らないから。
許されないと思うから。

それでいいと思う。世界という壮大なシミュレーション舞台の中で、 人は、「そう思う」自由を与えられている。

大切なのは、自分の立場を見つけることだ。 そこで何をすべきか、何をすべきでないかを考える。 本当の目玉は、鼻の上についている一組分、それだけだろ。 そこから見てみろ。何が見える?

という王立宇宙軍の将軍の言葉が思い出される。 結局人は、「自分の立場を生きるしかない」のであり、 そうやってこの世界は進行している。

だから、考えろ。 何を自分は「良い」とするのか。何を自分は受け入れるのか。 考えろ、考えろ、考えろ…

と追いつめられてしまう作品。 後半部分の感想は作品とあまり関係がないので気にしないでね。 強いて要約してしまうと、本編は「どう思うことが、本当に立場を貫くことなのか」 について書かれているので。

ところで、主人公は最後の方で「勝ち負けとは関係ない気持ち」について語っていた。 これはもちろん、「勝ち負けを前提とする世界」に対する「答」になるわけではない。

そうではなく、大きな「希望」なのだ。

1999/10/09 7:00 a.m.

クリスマスに少女は還る
キャロル・オコンネル
創元推理文庫

いや〜参った。読むのを止められず、結局夜が明けてしまった。 見事な作品。謎を解くミステリとしての完成度ももちろん非常に高いが、 やはり登場人物たちの心、その傷、そして癒しを描いたさまが実に見事。 登場人物の誰もが非常に奥深く描かれ、強い印象を残す。

クリスマスも近いある日、2人の少女がさらわれる。 心の傷を抱えつつ捜査にのぞむ警官。 15年前のクリスマス、彼の双子の妹もまた、誘拐され殺害されていた。 彼の前に現れる顔に大きな傷を持った心理学者の女性。 彼女は何故か、彼の過去を知っていた。 警察、州警察、FBI、政治家、そして有名私立学校のそれぞれの思惑が交錯しつつ、 捜査は進む。 自力で脱出を試みる少女たちはどうなるのか? 犯人は誰か? 心理学者の女性の秘密は?

そしてクリスマスに、物語は終わりを告げる。

徹夜をして読むにふさわしい作品。


1999/10/03 3:30 a.m.

幼な子われらに生まれ
重松清
幻冬舎文庫

バツイチどうし再婚した夫婦。妻の子供である娘二人と、 せいいっぱい幸せに暮らそうとした「私」。 そして、以前の父親の記憶を持つ娘から、 「本当の父親」として認められなくなりつつある「私」。 そして、私の本当の子供が、生まれようとしている。

わたしにとって、本当の家族とは何なのか。
わたしにとって、本当の幸せとは何なのか。
わたしは、何を望むのか。

祈りのようにつづられる言葉。

静かな感動を呼ぶ作品。読むべし。


1999/09/30 11:30 p.m.

グミ・チョコレート・パイン グミ編
大槻ケンヂ
角川文庫

「おれたちは何かができるはずだ」と信じ、 でも何ができるかわからずにただ悶々とするだけの主人公たちが、 その「何か」を見つけようと走り始める、というきわめてストレートな青春小説。 中高生にはお勧め(高校生でもちょっとつらいかな)だと思うけど、 年期の入った駄目人間であるところの自分には、 ストレートすぎてちょっとつらいのよ(笑)

血まみれのマリア: きんぴか2
浅田次郎
光文社文庫

悪漢小説の連作短編集。 基本的に、笑えることを狙った小説でしかないのだが、 「血まみれのマリア」「カイゼル髭の鬼」は泣ける! 特に「血まみれのマリア」中、救急病棟看護婦長「まりあ」の描写は実に見事。 参った。

レナードの朝 (映画)

何度見てもいいものはいい。 やはりデニーロ演じるレナードが食堂でダンスするシーンは、 涙なくしては見られない…

スターダスト (演劇)
日本テレビ・劇場中継

テーマは「家族」。 う〜ん、ちょっと食い足りない感じ?どこが悪かったのかな… いろんな家族のあり方があるということを見せようとして、 いくつかの家族の問題を一度に扱おうとしたせいで、 一つ一つの家族の描き込みが薄くなったのは明らかに問題だと思うけど、 さて、どう直しましょうか。

演劇的には、麻生美代子(フネさんを演じている声優さん!)演じるおばあちゃんが、 おじいちゃんの呼び掛けにこたえて手を振るシーンが見せ場だと思うから、 おばあちゃんを中心に構成し直すんでしょうか。 ってこんなこと私がいうことじゃないし舞台を見てない人には何のことかわかりませんねすみません。


1999/09/26 4:00 a.m.

ヘヴンズ・ルール(1): 愚者の楽園
後池田真也
角川スニーカー文庫

イラスト(相楽 直哉、知らない人なんだけど)につられて購入。 内容は近未来を舞台にしたライト・アクション・ノベル。 こんなもんでしょ(何だか最近すごく偉そうだぞ、注意しなきゃ)。

マトリックス (映画)

戦闘の空気感がたまらん! ハイスピード撮影のくっきりぱっきりした破片、薬莢、素晴らしい! スチールカメラをぐるっと並べて撮ったシーン(静止状態でカメラが被写体を回り込んで撮るとこ)は、 CMで出しすぎて驚きがなくなってしまい、損してると思う。

え、話? 見せたいビジュアルのためにでっち上げたストーリーに、 何を期待しろと? 突っ込みどころが多いという意味ではかなり面白い。 トンデモっぽいところもマル。

とりあえず、「考えるな、感じるんだ…」に落ち着くところに、 ブルース・リーの偉大さを再確認。


感想書き忘れてたもろもろを発見。

沈黙のフライバイ
野尻抱介
SFオンライン、 有償オンライン小説

SETI(Search for Extraterrestrial Intelligence、 地球外の知的生命体を探そうという取り組み)活動がぐんぐんわかる(笑)短編作品。 しっかりした科学的考察に基づいた話で、面白い。

天使になるもんっ!
大野哲也(画)、錦織博(原案)
角川書店

今期の名作になり得るか?という期待を背負ったTVアニメ 「天使になるもんっ!」のコミックス版。 絵に撃沈される。 名作になってほしい、と思う。


1999/09/22 3:30 a.m.

癒し人の伝説(1)
菊地秀行
ソノラマ文庫

軽すぎていまいち。バイオレンス系?

初ものがたり
宮部みゆき
新潮文庫

読み始めて「しまった!」と気付いた。これってPHP文庫で出てたやつじゃん。 というわけで新刊だと思って買うと失敗するので気をつけて!

内容は、ぴりっとした時代物の短編集。 小粒で、洒落た作品が詰まっているが、 宮部みゆきの作品の中ではとくにお勧めというわけでもなく…


1999/09/20 11:30 p.m.

死刑台のエレベーター (映画)

小粋な映画。ミステリとしては甘々。 犯罪の仕方も、その追いつめ方もなっていない。 けどこれはミステリじゃないんだね。 偶然に翻弄される一組の男女のやりきれなさを、 特に夜の街をさ迷い歩くジャンヌ・モローの表情を見る映画では。

マイルスのトランペットが絶品。

魍魎の匣
京極夏彦
講談社文庫

大変な作品だと思う。 いつものように過剰とも思えるほどの情報量、 そして幻惑的な語り。 だが京極さんは恐ろしく気を配ってこの作品を語っている。 そのため私たちは、「何が行われているか」は比較的素直に読めてしまう。 あとは読者に明かされていない人間関係が明かされ、 登場人物達が追いつくのを待つばかりである。 しかし、「何が行われているか」はこの作品のほんの一部なのだ。

繰り返し語られる匣のイメージ。
みっしりと詰まる感触。
そして天女のような少女の笑顔。

魍魎が、私の中にもやもやと現れる魍魎が、 そっと私の首筋に触れてくるのを感じる。

おそろしい作品だ。

古本屋の主人であり、神主であり、陰陽師であり、 問題を唯一外部から眺められる「他人」、 ただちょっと深く関わってしまっただけの他人である「京極堂」は、 情報の開示の順序こそが大切なのだ、と語った。 順序にこそ意味がある、と。 この小説の作者である京極さんは、そのことを身をもって証明している。 「ことだま」を使役すべき小説家たらんとする人にとって、 これは非常に示唆に富んだ言葉だ。

それから、エピグラフの一文。

一日も早い『科学の再婚』の成就を願う多くの輩に捧ぐ―――

そう、これは私たち技術者にとっても大きな作品なのだ。 祝いでもあり、呪いでもあるこの作品。読むべし。


1999/09/19 11:00 p.m.

ベルリン・天使の詩 (映画)

美しい映像。やっぱり黒コートの天使達はベルリンの街にこそ似合う。 戦争の歴史をつづっていく天使と、 人の生の美しさにひかれる天使。 テーマが広くて、それがこの映画に深みを与えているのだけれど、 ちょっと散漫な感じになることは避けられない。 やっぱりサーカスのシーン、 そして空中ぶらんこのりの女性を丹念に描いてくれるとよりぐっと来たかも。 ラブストーリーだけに絞ってエンタテイメントにした「シティ・オブ・エンジェル」は確かにハリウッド映画としては正解。 評価はしないけど。 そうそう、ピーターフォーク演じる「かつて天使だった俳優」はいい役。

ティコ・ムーン (映画)

コミックを映画にしたことが良く伝わってくるメリハリの付け方、 そして画の作り方。なかなか面白かった。 埃だらけのくすんだ街並み、 白い肌に映える真っ赤なショートヘアの少女、 いかにもフランスらしい香りのする映像が続く。 女殺し屋のジュリー・デルビーがいい。 強くて弱い、そんな少女を見事に演じている。 ついでに殺し屋のおっさんも実にいい味を出してる。


1999/09/14 3:30 a.m.

萌の朱雀
仙頭直美
幻冬社文庫

人は、つながっている。 親から子へ。孫へ。 人一人が世界に描ける軌跡はほんのひとときだけど、 人と人の間には、何かが、つながっている。 そういうことを確信させてくれる作品。 本当に静かな、静かな作品。

映像向きだと思う。映画のノベライズだから、あたりまえか。

見張り塔からずっと
重松清
新潮文庫

痛い作品。どこにでもいそうな、哀しいほど普通の家族が、 どこかで何かを間違えてしまった、そういうお話。 社会の中で何気なくささやかれる言葉が、 あまりにも簡単に、そしてあまりにも深く人の心を狂わせるさまが、 淡々と描かれる様は恐ろしく、哀しい。 決して特別な事件はいらない。そこにあるのは日常だけ。 決して逃れることができない、日常だけ。

私たちは見ていなければならない。見張り塔からずっと。 そこで何がおきようとしているのか。

そこで、私たちは何と叫ぶのか。

羊のうた 1,2
冬目景
ソニーマガジンズ

人は、誰かに必要とされるから生きられる。 そのために自分を傷つけることは、実はたやすい。

世界の中で自分の居場所を見失った姉と弟が、 お互いを必要としながら生きていく。 それは確かにままごとかもしれない。二人はそれを自覚している。 だけど、いのちをかけたままごとだってあるのだ。 そして、そんな二人の中に飛び込もうとする少女。 純粋で、一途で、おそらくいのちをかけて彼と向き合うであろう少女。

冬目景さんの独特の質感を保った絵が、この話の厚みをしっかりと支えている。 これからの展開が非常に気になる。3巻見つけなきゃ。

スクール
OKAMA
ワニマガジン・コミックス

いやーおどろいた。ギャルゲーの原作としてまんま使えるんじゃない? と思えるくらい、軽快なエロマンガになっている。

ただ、それでもOKAMAさんらしさはにじみ出る。 もてもて主人公が「前向きなエッチ」に目覚めるや否や、 苦い、哀しい現実を突きつける。 軽いんだけどそれだけに終わらない、軽さが嫌みにならない 話の作り方はお見事。

とりあえず「愛は無限大だ!」には大爆笑。


1999/09/11 3:30 a.m.

ハイ・フロンティア
笹本裕一
ソノラマ文庫

星のパイロットシリーズ第3弾。 ちょっとパワーダウン。 クラッキングが話のメインになっていて、 ミッションを描いたの部分がほんの少しになってしまったせいか。 クラッキング自体はその対処法とともに非常に丹念に書いてあって、 好感が持てるけど。 あ、それから武装のない機体が追っかけられるという描写は少し良かったかも。

う〜む、やっぱり敵の設定がちょっといいかげんすぎかな…。

私と月につきあって
野尻抱介
富士見ファンタジア文庫

宇宙開発もの強化月間につき、この1冊。 う〜んどうだろ、ちょっとゆかり(主人公)たちが「臨機応変」に行動しすぎる気がしちゃう。 やむを得ずって部分だし、実際に良くやってるとは思うけど、 もう少し周りのクルーがきちんと仕事をする場面も作ってほしいというのは望みすぎかな? いや、ゆかりたちパイロットの視界にほんの一瞬しか入らない、 名前も書かれないような幾多のスタッフ達がきっちりと仕事をして、 それでこそロケットは飛ぶはずなので。 あ、でもそういうセリフも書かれてるんだよね。 「打ち上げ後に整備棟の片隅で、はにかみながら握手を求めてくる人々」なんて感じの記述があったと思う。 そういう人たちがこの作品のようなアクシデント続きのミッションを組むはずがない…と思いたい。 ま、でもゆかりたちを活躍させるには仕方がないのかも。 もちろん面白かったよ。 どうも「クレギオン」シリーズの方が「ロケットガール」シリーズより面白い感じはまだ続いてるけど。

しかし、フランス人にはちょっと読ませられない…。 確かにフランスのロケット開発はぽかミスのうわさが絶えないんだけど。 ノズルの中に掃除用の布を置き忘れたとか。

観光王国
須藤真澄
アスキー

須藤真澄初期短編集、待望の復刊。手に入らなかっただけにこれはうれしい。 で、読んでみて。 いや参りました。いい作品がいっぱい。 でも若くなくちゃ描けないっていう作者自身の言葉も分かる。 非常にストレートに、作者の言いたいことが伝わってくる。 ストレートすぎて、美しいんだけど、もろい。 不思議で、どこか懐かしくて、あたたかい作品群。読むべし。

でも、表題作だけは読解できませんでした。ううむ。

子午線を歩く人
須藤 真澄
アスキー

これまた須藤真澄初期短編集。観光王国と同様、読むべし。 でも締め切り間際のエッセイマンガが登場しているのは笑えた。 現在の状況への伏線に見えて…。

ななつのこ
加納朋子
創元推理文庫

北村薫さんの「円紫さんとわたし」シリーズと同様、 日常に現れるかわいらしい謎を解きほぐしていく推理小説。 でもこれは推理小説の枠にはめるべきじゃないと思う。 表題どおり、7つの話からなる短編連作の形なので、 1つ1つの話の「謎」はそれほど難しいものじゃなくて、 ちょっと知識がある人なら謎と思わないし、あっという間に謎解きなので不思議に感じる暇もない。 だからあまり「謎解き」の要素は強くない。 しかし、主人公と周りの人との心の交流、作者の優しい視線、 暖かい語り口、そういったものがこの作品を本当に美しく彩っている。

とはいうものの、途中までは「これは北村薫に勝てないな…」と思っていた。 しかし、第6話、「白いタンポポ」でぐっと評価が上がった。 主人公と幼い真雪ちゃんとがふれあうシーンは、どこをとっても 限りなく美しく、やさしく、胸に迫ってきた。 この話は絶品。

センチメントの季節: 冬の章
榎木ナリコ
小学館

人は心だけではない、しかし身体だけでもない。 それに気付くつかの間、センチメントの季節の少女達の素描。 青いんだけどね。でも好きだな。

あ、エロです。短編集。

HOT愛Q
藤原カムイ
角川書店

藤原カムイ初期名作と帯の文句。でも名作はどうかな〜。 かなりだまされた感じ。 コンテの切り方というか、展開の見せ方がぬるいんだよね〜。 これはいい絵だ、とおもったら加筆修正分だし。 やっぱりまだ明らかに未熟なころの作品だね。


1999/09/05 5:30 a.m.

カードキャプターさくら(映画)

はにゃーん。 クオリティは相変わらずだけど話が映画に耐えられない。 テレビスペシャル程度か。

クローバー(映画)

きれいな小品。15分くらいでコンテ切ったのが見たいかも。

秋葉原電脳組(映画)

スレイヤーズみたいに(失礼)ひどいのを想像してたんだけど、 想像を裏切って楽しかった。 話は映画に耐えられないやつだったけど。 笑わせと泣かせのつぼを押さえた感じかな。

少女革命ウテナ(映画)

お見事。 こんなに好き勝手やっても映画として成立するんだ、という驚きを感じる作品。 舞台が美しいのはテレビ版以上。 尺の関係からかストーリーと演出がすごくわかりやすく作ってあるので、 よりストレートにテーマが伝わって、 右脳に快感を伝える映像とあいまってクライマックスで素直に泣ける。 見るべし。

ロリータ
ナボコフ
新潮文庫

テーマはともかく、最近の早い展開になれた身としては、 ちょっと長編にするとだれる感じ。発表当時ならね… 映像向きのはず。 ちょっと前のエイドリアン・ライン版映画「ロリータ」は見ておくべきだったか。

星のパイロット
笹本裕一
ソノラマ文庫

楽しい。 好きなことを素直に書いた感じ。 エリアルみたいな変なノリがなくて、丁寧に書いているので そういうのがだめな人でも大丈夫かも。

彗星狩り(上・中・下)
笹本裕一
ソノラマ文庫

星のパイロットシリーズ第2弾。 文句無しに楽しい。 星が好きな技術者(いや、技術屋、だね) だったら素直に楽しんで、はらはらして、感激できるのでは。

それはそうと、誤植が多いのはソノラマ文庫の特徴か?ちょっと残念。


1999/08/20 5:30 a.m.

男達の挽歌(映画)

言わずとしれたジョン・ウー監督のやくざ映画。 男達が渋い!燃える! でもやっぱり最初のころの作品なので銃撃シーンがやや力押し。 悪役がバッタバッタ倒れていくのは、あくまで戦闘の流れの結果として そうなるのはいいと思っている。で、この作品ではそういういいシーンもあるけど (1人で復讐にいくところ)、クライマックスがちょっといまいち。 主人公側がサブマシンガン撃ちまくってるとかってに雑魚が倒れてくのがちょっと。


1999/08/18 3:30 a.m.

唇からナイフ(演劇)
日テレ・劇場中継

SFネタの演劇。

所員が3人しかいないぼろい研究所でクローン人間が作られる。 彼女は誰のクローンなのか。何のために作られたのか。 そして、あまりに早く情報を取り込みこの世界に順応していく、 ものすごい勢いで成長していく彼女はどうなるのか。 謎を握る所長。 そして彼女が唯一知り合う外の世界の人間、ピザ配達員の男。 彼女は彼に「自分を覚えていてほしい」と願う。 そして、たった一日の時間を駆け抜け劇はクライマックスへとなだれ込んで行く。

面白いけど、演劇的な要素(笑いを取るとことか)をはずして 小説にした方が良かったのでは。 話にはそれぞれ最適な見せ方があって、この場合演劇であることの 強さが出てなかったような気がする。 もちろん熱演だったけど。


1999/08/16 4:30 a.m.

素敵なダイナマイトスキャンダル
末井昭
ちくま文庫

むやみに面白い。 猥雑なもの、眉をひそめられそうなもの、そういうものの中に たしかに何かがあることを確信させる作品。 本当に力が抜けた文章で、淡々とその時々のことを書いているに過ぎないのだけれど、 「むやみに」面白い。 南伸坊「さる業界の人々」(ちくま文庫)もあわせて読むべし。

サライ 2・3
柴田昌弘
少年画報社

しっかりした話になりうるのに中途半端にお色気を入れるもんだから、 どうも全体的にスタンスの中途半端さがぬぐいきれない作品になっている感じ。

大同人物語
平野耕太
ワニブックス

熱い!かっちょいい!続巻熱望!

地を這う虫
高村薫
文春文庫

人生において勝つことはできなかった、 しかし決して負けたわけではなかった男達のひそやかな誇りの物語。 誰もがヒーローになれるわけではないこの世界で、 自分の中の何かを守って「地を這う虫」のように生きる凄みが ひしひしと伝わってくる作品。

ブギーポップ・ミッシング: ペパーミントの魔術師
上遠野浩平
電撃文庫

またしても「やられた」という感想。 今回はいつものような「若いやつらの苛立ち」みたいなのは前面には出てこず、 一瞬のきらめきを残して転落していった魔術師の軌跡を印象深く描くことに 力点を置いた作品だと思う。 で、見事に成功している。

誘拐(映画)
1997・日本

報道陣の群集シーンがいい。 犯人の動機が説教臭いのが今風じゃない (最近は異常犯罪がおおはやりだから)のがまたいい感じ。

ニキータ(映画)
1990・フランス

ニキータに希望を持たせ、その後に突き落とす、という繰り返しのシナリオが見事。 このおかげでニキータの哀しさがぐいぐい突きつけられる。


1999/08/03 5:00 a.m.

スキップ
北村薫
新潮文庫

なんて強さを、なんて美しさを持った人なんだろう、 とため息をつかざるをえないほど、キラキラと生きる主人公が 深く心に残る作品。

17歳の主人公が、高校の文化祭の後のまどろみから醒めてみると、 突然25年後の「わたし」になっていた…娘も夫もいる、高校教師である、 42歳の「わたし」に。 この作品は、このような状況のもとでわたしがどのように 「いま」を生きるのか、「いま」を生きようとするのかを描いている。 彼女の心が、胸をはって軽やかに「スキップ」するさまが、 静かな感動を呼ぶ。読むべし。

どんぐりくん
須藤真澄
竹書房

ねこまんが。ぷりちー。

ゆずたちが「幼年期の終わり」の子供たちみたい、という感想が聞かれた。 まったくその通りかも。

おさんぽ大王 3
須藤真澄
アスペクト

エッセイまんが。 須藤さんが最近エッセイと猫しか描かないのを残念に思っていた時期もあったけど、 最近では「やっぱり人は変わるし、若いうちしか描けないことってのは たしかにあるよな」と納得してます。

ぼのぼの 17
いがらしみきお
竹書房

かわいいだけじゃない(最近のぼのぼのはかわいくなくなってるかもしれないけど)、 ギャグだけじゃない(ギャグも指向してるけど)作品。 「誰かが見ている」「シマリスくんのおにいさん」がよかった。

サライ 1
柴田昌弘
少年画報社

戦闘メイドもの。というといかにも狙ってます、 というあざとさを感じるけど、意外に本格的。 とりあえず続きをそろえてみますか。

アガルタ 1・2
松本嵩春
集英社

よい。本格的な作品。 心配なのは、結構舞台を大きくしちゃっているので、 ちゃんと話に決着がつくかということ。 連載中止や連載誌廃刊とかいう危機が来なけりゃいいけど。

進め!!聖学電脳研究部
平野耕太
新声社

ゲーム雑誌に連載されたゲームエッセイ漫画…なのだが、 作者が何しろ「あの」平野耕太。 そりゃもうとんでもないことになってます。 どうしても「ダメな方へダメな方へ」行ってしまう姿勢に感動。

ついでに大ゴマがあるとサービスカットを描かずにいられない姿勢にも感動。


1999/07/24 4:30 a.m.

長い長い殺人
宮部みゆき
光文社文庫

脱帽とはまさにこのこと。 10個の財布が見聞きしたことを語ることで1つの事件を描いてしまうという、 ある意味「豪腕」ぶりを発揮した作品。 事件のネタ的にはものすごく面白いわけではないのだけれど、 その表現まで含めた作品として捉えると「ものすごく面白い」といえると思う。 現在ワイドショーで似たような状況がおきているのは皮肉かも。

笑わない数学者
森博嗣
講談社文庫

これまたついつい一気に読了。森さんの話は偶然自分の仕事が一段落した週末に読み始めることが続いたから一気読みしてるだけで、 森さんの小説を強く勧めてるわけじゃないからそのつもりで。

今回の話も面白かったんだけど、ちょっといつもとは違う楽しみ方をしてしまった。 ミステリを読んでると、時々、 もう最初からトリックも犯人も分かっちゃって、 あとは動機について主人公といっしょに追うだけ、ってことがあるけど、 今回がまさにそれ。 ま、偶然わかっちまうときは仕方がないよね。 後は作者がどうやってその謎を見せるか、 どう伏線を張って主人公のひらめきに理由をつけるか等に感心してみたりして。 (この視点で読むと結構作者も気をつかって書いていることが分かる。 電車の話とか、結構何気ない描写のふりして混ぜ込んであるんだよね。 サンドイッチが関係していたのは不自然な気もするけど。 あの胡椒のセリフって萌絵のかわいい嘘としてとらえるのが自然だと思うんだけどな。 )

というわけでちょっと不純な読み方ではあったけれど面白く読了。

なんか今日の感想文は2冊とも小説技巧について多く語ってる気がする。 ちょっと反省(してないけど)。


1999/07/19 2:00 a.m.

エイリアン9 (2)
富沢ひとし
秋田書店

2巻もお見事。 とりあえず主人公たちがどんな状況におかれているかが解明される。 で、これがまた結構きっついシチュエーションにもかかわらず、 彼女たちが一生懸命そこでふんばろうとするところがけなげで… あとがきの最後のせりふで泣きました、はい。

クロノス・ジョウンターの伝説
梶尾真治
ソノラマ文庫NEXT

相変わらず時間ネタの短編を書かせると見事。 ちょっと話が甘い(甘いラブストーリーになってるって意味ね)かなとも思うんだけど、 まあこういうのもありでしょ。 こういうの好きだし。


1999/07/08 1:00 a.m.

ポケットに名言を
寺山修司
角川文庫

この本に、自分にとってしっくりくる名言は思ったほどない。 しかし、なんでもない言葉でも切り取ってみると意外に味わい深いものもある。 言葉への感覚を常に高く保つべし、ということを再確認させた本。

夜明けのブギーポップ
上遠野浩平
電撃文庫

あいかわらずうまい。そして若い。 いや、青い、というべきか。 この世界はどこかで間違ってしまったのではないか、 自分に何かが変えられるのではないか。 爆発するほどの怒りと、「妥協することが大人ってことさ」とうそぶくこととの 2つからともに距離を置いた、 微熱のように続くかすかな感覚。 その感覚を恥ずかしがることなく書ける若さ。 そんな若さに満ちた作品。

で、私はそういう青い話が非常に好きだったりする。

エイリアン9 (1)
富沢ひとし
秋田書店

当たりのSFマンガ。 SFオンラインの書評に「エヴァが突き刺すような痛みであるのに対して、 この作品は脳みそをやすりで削られているように痛い」と書かれていたが、 読んで納得。あいたたた… とりあえず早く2巻を買ってくることを決意。

六の宮の姫君
北村薫
創元推理文庫

お見事。いわゆる推理小説とはちょっと解く謎が違って、 芥川龍之介がどうして「六の宮の姫君」を書いたか、 ということについての一考察を展開しているのだが、 見事な小説となっている。 芥川と菊池寛ら友人達との交流、そして彼らの心の動きを 書簡や逸話で追っていこうとする作品であり、 彼らの心のふれあいの温かさ、そして哀しさが心に迫る。

文章の面で言うと、 平易な言葉、やさしい言葉を使いながらこんなに美しい文章が書けるんだ、 というすごくいい見本だと思う。 また、一つ一つの節がどれも美しい。

読後には芥川と菊池寛の小説が読みたくなる作品。


1999/06/28 4:00 a.m.

ぼくが天国でもみたいアメリカ映画100
淀川長治
講談社プラスアルファ文庫

資料集。語り口が例の淀川節なのがほろりとくるくらいかな。

キリンヤガ
マイク・レズニック
ハヤカワ文庫

名作。西洋文明によって失われてしまった伝統生活を 必死になってあるコミュニティに続けさせようとする男の話。

人間はいつまでたっても知ることをあきらめはしないだろうし、 変化することを放棄したりはしない。 たとえ何かを知ることで古来からの何かが失われたり、 あるいは自滅へといたる可能性があるとしても、 それでも人間は知るべきだと思う。


1999/06/14 3:00 a.m.

機動戦艦ナデシコ ルリ AからBへの物語
大河内一楼
角川スニーカー文庫

ファンは買いましょう。ファン以外の人は買うのをやめましょう。 なんて説明はあたりまえすぎますかそうですか。

若葉色の訪問者
麻生俊平
角川スニーカー文庫

麻生さんのスニーカー一作目。4月頃の作品なのに今ごろ読んでるのは、 読むべき本をスタック管理してるからなので、 あまり気にしないでね。

で、本編の内容だけど、 見事にライト・ファンタジー。 こういうのもたまに書きたくなるよねー、とか思っちゃうんですけど。 ただ、この人はまだ軽い話に慣れてない感じだし、 この手の話はいろんな人が書いてるので、 インパクト的にはちょっと弱いかなと。

麻生さんの本は何冊にもわたる長編ばっかりなので、 今回の話が一冊できっちり終わってしまったのにはびっくりしたけど。

面白いけど、特記事項なし、といったところか。


1999/06/07 3:00 a.m.

冷たい密室と博士たち
森博嗣
講談社文庫

ついつい一気に読了。面白いミステリだった。 前作「すべてがFになる」に比べると、 より「普通」のミステリになったようである。 前作のトリックは(というか謎解きにいたる道筋は) コンピュータを専門にしているものなら「おいおい」とか言いたくなる面もあったのだけれど、 今回はいたって明快なトリック。 しかし、前作にあった犯人像のような新鮮さ、 そして妙にさわやかな読後感が本作ではなくなっている。 いたって普通に、丁寧に作られたミステリになってしまったという感想である。

一つうれしいのは工学に身を置く人間が書いているという点。 相変わらず、工学者が心のどこかで気にしていること、 「私のやっていることは、誰かの役に立つのだろうか?」という疑問を 少し和らげてくれている。


1999/06/06 4:30 a.m.

アンナ (映画)
1987年 アメリカ

落ちぶれた亡命女優、アンナを頼って少女がアメリカにやってくる。 2人の間に生まれる交流。だが少女は大スターへと駆け上がって行く。 錯乱していくアンナ。

狂っていくアンナが見事であり、あまりに哀しい作品。 くるおしい、ものぐるい、そういう言葉に私は惹かれる。 あまりに好き、あまりにさびしい、そんな気持ちが積み重なって 人の心が壊れていくさまは、ひどく私の心を打つ。

エンディングで、 錯乱したアンナは砂浜で撮影中の少女に銃を向けるが、 海の中で彼女にすがって泣く。 美しいカットだった。


1999/06/06 2:30 a.m.

やけたトタン屋根の猫
テネシー・ウィリアムズ
新潮文庫

戯曲。原題は "Cat on a hot tin roof"。 同性愛の夫、末期ガンの義父、遺産相続を有利に進めようと画策する義兄夫婦、 そんな中で自分はやけたトタン屋根の猫のようにじりじりしながらひたすら何かを待ちつづけている、 そんな状況を克明に描いた作品。 でも主張が薄いので、読んだ後「ぐっとくる」感じはなかった。


1999/06/03 5:00 a.m.

サニー・コースト・セレナーデ (演劇)
泪目銀座
日本テレビ「劇場中継」

いい舞台だった。 音楽の力というものをひしひしと伝えてくる作品。

人は本当に好きなことをして生きていけるとは限らない。 子供のころ、「君の前に無限に広がっている」といわれた未来は 少しずつ枝別れして、僕らは年とともにそれを選んで、 後戻りできなくして、そうして大人になっていく。 だけど、必ずしも後戻りできないってわけじゃない。 僕らはまだ音楽が好きだし、こうして演奏するのはすごく楽しい。 だからさ、君も歌ってみないかな。 僕らにはわかる。君が歌を好きで好きでたまらないってことを。 ね、きかせてよ。 君の歌を。

という作品。


1999 6/2 4:00 a.m.

夢にも思わない
宮部みゆき
中公文庫

いつもの宮部さんの心がほのあたたかくなる作品と違って、 今回の作品は非常に苦い。ニガくて苦しい。 それは、みんなの中に少しずつしまわれていた黒いどろどろしたものが 見えてしまうから。 誰もが、世界の人を平等に愛するなんてことはできっこなく、 必ずどこかで順序をつけなければならないのだけれど。 だけど、 だけど僕たちはどんな風に順序を付けているのだろう。 身近じゃない人には、どうしてそんなに残酷になれるのだろう。

怒りと、そして哀しみに彩られた作品。読むべし。


1999 6/1 2:00 a.m.

狗狼伝承 転輪少女・サヤカ
新城カズマ
富士見ファンタジア文庫

面白いです、はい。 ストーリー自体は、典型的な富士見ファンタジア系だけどね。 アクションと、ファンタジーと、ラブロマンス。 だけど飽きさせることもなく、次も読みたいと感じさせてしまうのは やっぱりうまいからなんだよね。

…ところで、「蓬莱学園の革命!」ってまだ書く気はあるんだろうか…

ミュートスノート戦記 疾風果つる戦場
麻生俊平
富士見ファンタジア文庫

シリーズ半ば、急転直下の巻。 相変わらず丁寧に書くね〜という感じ。 現代を舞台にして戦闘を書こうとすると、 この巻の展開は必然なんだけど、結構ショックを受けた人もいたかも。

やけっぱちのアリス
島田雅彦
新潮文庫

軽やかな青春小説。といっても主人公たちの周りは 軽やかなんてもんじゃないんだけど。 アリスの軽やかさ、若々しい「やけっぱち」ぶりに好感を覚えつつ、 そうだよね、みんなやけっぱちになって生きていけばいいんだよね、 とうれしくなる作品。

謎物語 あるいは物語の謎
北村薫
中公文庫

ミステリを題材に、その「トリック」と「表現」について、 「批評家」について等、様々な文献を引きながら語ったエッセー。 ミステリファンが読んでももちろん面白いと思うが、 小説を書くことを志す人が読んでも面白いと思う。

ミステリにおける「トリック」は当然完全に新しいものを作ることは難しく、 前例となる作品があることも珍しくない。 だが、前例のあるトリックを使っていてもなお、 きらきらと光る、価値のある作品というのは歴然として存在する、と 北村さんは語る。 この「トリック」を「ネタ」と読みかえてみれば、 小説書きへのメッセージとなる。 逆に、表現によってまったく価値のない作品となることもありうる。 それは非常にこわいことだけど、 北村さんは「しかし友よ、それは冒す価値のある冒険なのだ」と元気付けてくれる。

それに、叙述について非常にいい勉強になるし、 やっぱり小説書きになりたい人は読むべきじゃないかな。


1999/05/11 2:00 a.m.

ガダラの豚 1〜3
中島らも
集英社文庫

超能力、魔術、奇跡、呪術、そういうものを現代の社会でどうまじめに扱うか、 という点に気が配られててよい。 社会機構としての「呪い」や、 心理学、薬学、 その他使えるものは何でも使って人をだます(それが悪意を含むか否かは別問題) 「呪術師たち」の描き方が面白い。 最後のどたばたは嫌いな人もいるかもしれないけど、 やっぱりエンターテイメント小説にはクライマックスが必要だしね。 ともあれ、ファンタジーを書こうとしている人は読んどいて損ないんじゃないかな。 あ、もちろん普通の人が読んでも面白いでしょ。


1999/05/06 5:00 a.m.

トーク・レディオ (Talk Radio) (映画)
1989・アメリカ

リスナーからの電話を次々とつなぎ、 だめだめなことを言ってくる人たちをがしがし切りまくっていく、 という深夜ラジオの人気番組のパーソナリティの物語。 電話の内容がもう気が滅入るような内容ばっかりで、 いかにもアメリカという感じ。 ラストで、主人公がリスナーに自分の気持ちをぶつけるシーンは かなりいいと思う。 深夜TVで、偶然途中から見始めたものだけど、拾いもんだったかも。


1999/05/04 4:00 a.m.

舞姫通信
重松清
新潮文庫

あおりの文書が最近よく考えてたことに近いことだったので、 ふらっと買ってしまったんだけど、 かなりよかったと思う。

「人は死ねる。いつか。いつでも。 だけど、僕は思う。君たちの「いつか」が、ずっとずっと、 遠い日でありますように。」

よく考えてたことってのは、 「生きていなくてもいいでしょ」って言う人にいったい自分は何を伝えたいのか、ってこと。 (そういう意味では「先、越された!」とも思ったんだけどね。)

Cowboy Bebop

やっとビデオテープが借りられたので24話から26話(最終話)まで見る。 久しぶりに「終わってしまって惜しい」アニメーションだった。

24話:
黙々とゆで卵を食うシーンにつきる! この回を見てからサントラ3(これも買うこと!)の"Call Me Call Me"を聞くと、 めちゃめちゃ泣けてよし。 エドもいい。

25,26話:
密度たっぷり。 いま少し冷静になって思い返してみると、ジュリアについて もう少し丹念に描写してもよかったかなとも思えるけど、 見終わったときはそんなことはちっとも思わなかった。 すごい完成度だよね。 この回もみんないいけど、とりあえずフェイについて。 フェイは、独りでちゃんと生きていける「かっこいい女」を目指してると思うんだけど、 今回はフェイとしては「かっこ悪い」姿をさらしてしまう。 そういうかっこ悪さがフェイの「生きた」姿を描いていてすごくいいと思う。 そういえば、最近はジェッドにも結構ひかれる。 ジェッドって饒舌で、説教臭いおっさんなんだけど、 そのかっこ悪さがかっこいいよね。


1999/05/01/1:00 a.m.

逮捕しちゃうぞ(映画)

設定や見せ方にあまりに共通点が多いので「パト2」を意識したのか?とか 言う人もいるかもしれないけど、元々スタンスが違うよね。 ストーリーを見せるために、ストーリーに必要なリアリティを出すために 緻密に作った「パト2」と、 オタクちゃんのためにリアリティを追求した「逮捕」だから。 というわけで非常に面白いアクション映画。 アニメーションでしかできない、アニメーションの描き方というのをよく知ってると思う。 ラス前のホバリングするヘリとトゥデイのからみとかね。 見るでしょ。


1999/04/30 2:00 a.m.

めぐりくるはる
OKAMA
ワニマガジン・コミックス

お見事。うたうたいの話「カナリア」がいい。 何度も言うようにエロなのでそういうのがだめな人はだめでしょう。 でもエロも大丈夫な人は読んでみたほうがいいかもね。

ラグナロク 3・4
安井健太郎
角川スニーカー文庫

4巻くらいからやっと本文中に戦闘シーンの占める割合が気にならなくなってきたかな。 自分がだんだん作者のリズムに慣れてきたのかもしれないけど。 だけど、主人公が頭悪いのがちょっとね…。 頭悪いのはいいんだけど、それを当然とする感じがいただけない。 考えることを最初から放棄しておいて、どうだ、かっこいいだろうというのは ちょっと違う気がするんだよね。 作者のこの芸風だったら、B級アクションを目指すといいと思うんだけど、 中途半端にA級を目指すあたりが惜しい気がする。

富江(映画)

これまたB級ホラー映画にすればよかったのに、 どうも中途半端さが先に立つ映画だった。 菅野美穂は熱演だったかな。


1999/04/23 3:00 a.m.

ラグナロク 1・2
安井健太郎
角川スニーカー文庫

戦いまくる主人公たち。緊張感もこれだけ続くとだらける感じ。 ちょっとメリハリに欠けるかな…。 面白くないわけではないんだけど。

グランドホテル(書き下ろしホラーアンソロジー・異形コレクション9)
井上雅彦(監修)
廣済堂文庫

1つのホテルを舞台に多くの有名作家が書き下ろした短編集。 京極も書いている。 割と気に入ったのは津原泰水の「水牛群」かな。 主人公が突如倒れたときに世話になる蕎麦屋の女店員が気になる。 こういう「いい娘」には弱い。 いやだから何度も言うようにキャラで読んでるわけじゃないんだけど…。


1999/4/9 4:00 a.m.

めぐりくるはる2
OKAMA
ワニマガジン・コミックス

成人向けじゃないことが信じられないエロ本だが、あなどるべからず。 独特な世界観が楽しいSF「せんたくき」「かいじゅうとあそぼう」を楽しみ、 「はちうえのたね」で親父に殴られた後で、 再生の物語「きりかぶの芽」で泣ける。読むべし。

サラマンダー殲滅(上・下)
梶尾真治
ソノラマ文庫NEXT

う〜ん、ぐっとくるシチュエーションを詰め込んだ感じはあるんだけど、 どうも全体的にのめり込めないのはなぜだろう。 悪くない、というか悪いところが明確な言葉にならない、くらいの評価でご勘弁を。

ヴァーチャル・ライト
ウィリアム・ギブスン
角川文庫

いわゆる「サイバーパンク」の目新しさはやや薄れた感じ。 「カウント・ゼロ」のアンジーのようなぐっとくるキャラなし。 う〜ん、キャラで読んでるわけじゃないんだけど。

李歐
高村薫
講談社文庫

いつもながら高村薫の文章の「厚み」というか何と言うか、 とにかく「完成度」の高さに圧倒される。 少年が窓から見る大坂の下町の工場の描写、 物語を通り過ぎる人々の上に流れる時間、 私にはこういう文章が書けないことがひどくつらい。

「リヴィエラを撃て」と同様、本作も、時代に翻弄され、 国と言うシステムに翻弄された幾人もの人が描かれる。 命を懸けたぎりぎりのところで、彼らが守ろうとするのは この世界構造などでは断じてなかった。 人と人が交わした言葉、見交わした視線、そういったものを 彼らは最後まで守ろうとした。 「リヴィエラ〜」がこのテーマを詳細に描き切ったのに対し、 本作はもっと伸びやかに、軽やかに、 確実に時代は変わってゆく「希望」までぬけぬけと言いきってしまう。

大陸の風とそこに舞う桜吹雪を感じられるほどの作品だと思う。読むべし。


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